情報データ科学の「いま」がかわる!!プロのコトバ ~INTERVIEW~

様々なIoTシステムの開発を支えるサービス基盤マイスター

長谷 亮(ハセ リョウ)さん

【会社名】 三菱電機株式会社
【所属部署名・役職】 情報技術総合研究所 IoTシステム基盤技術部 クラウドシステム構築技術グループ 研究員
【入社年】 2016年
【略歴】

学生時代は工学研究科にて情報システム工学を専攻。電力市場の分析のための電力取引の数理モデル化に関して、グラフ理論のマッチングという手法を応用した研究テーマに取り組む。修士課程を修了後、三菱電機に研究員として入社。

入社後6年間、パブリッククラウドを活用したシステム構築技術の研究に従事。具体的には、クラウド上のシステムを構成するサーバやネットワークの環境構築自動化技術の開発や、それらの技術の製品開発現場への適用に取り組む。

入社2年目から会社の許可を得て、大学院の博士課程に入学。業務外で修士時代の研究を発展させ、電力取引における需要家の効用を分析するための数理モデルを提案。この研究成果をまとめて論文を作成し、博士号の学位を取得。

インタビュー
総合電機メーカーにおける研究員の仕事とは?

現在の仕事について

三菱電機株式会社 長谷さん

自社紹介

三菱電機株式会社は、総合電機メーカーとして「家電から宇宙まで」と言われるほど幅広い製品開発を行っています。

社名を聞き家電を思い浮かべる方が多いと思いますが、多様化する社会課題の解決に向けて、ライフ、インダストリー、インフラ、モビリティという4つの領域で事業に取り組んでいます。各領域で取り組む課題の例として、ライフでは「快適な暮らし」、インダストリーでは「労働力不足への対策」、インフラでは「自然災害への備え」、モビリティでは「快適な移動」などが挙げられます。

具体的な事業の例として、三菱電機では、従来から重電分野をはじめ社会インフラに関する様々な事業を手がけています。社会インフラには、電力、鉄道、道路、通信などがあり、これらの事業で活用される製品・サービスを多数手がけています。

今注力しているのは、様々な事業分野・技術分野の取り組みを生かして、複数の分野を掛け合わせることでシナジーを生み出し、統合ソリューションとしてお客様に提供することです。例えば、「スマートシティ」の実現に向けて、ビルの電力、空調、エレベーター、セキュリティなどを総合的に管理するソリューションが挙げられます。三菱電機グループ内外の力を合わせて、社会全体を支える様々なソリューションを生み出していきます。

また、民間企業としては、広い事業領域を支える大きな研究組織(先端技術総合研究所、情報技術総合研究所、統合デザイン研究所)を持っていることも大きな特色と言えます。海外にも研究拠点があります。研究所が生み出した技術が、当社の様々な事業に展開され、製品開発に生かされています。

三菱電機の経営戦略については、以下をご覧ください。
https://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/gaiyo/keiei/index.html

入社した理由

学生時代の研究テーマで「電力取引の数理モデル化」を扱っていたことから、社会インフラの発展に貢献している企業に興味を持っていました。三菱電機は技術・理論を研究し、幅広い事業に適用していける会社だと考え入社を決めました。

入社のきっかけとなったのは学生が興味のある職場を見学し、ジョブマッチングを申し込める「配属先指定リクルーティング制度」。略して「配リク」とも呼んでいます。

この制度を利用して情報技術総合研究所を見学させてもらい、様々な社会インフラ事業を支える情報システム構築技術の研究開発をしている職場に出会い、この職場で技術や理論をもとに多くの人の役に立ちたい、という思いが強まりました。

現在の仕事と役割

弊社の情報技術総合研究所の研究員として、主にIoT(モノのインターネット)を実現するシステム向けの計算機インフラ関連の研究開発を担当しています。

研究開発のテーマ決めは、大きく2パターンにわかれます。一つは、製品開発を行う事業部門のメンバーと立案したテーマの研究開発です。もう一つは、将来期待される技術に関し、研究所で独自に立案したテーマの研究開発で、それぞれに違った面白さのある仕事だと思っています。

前者の事業部門のメンバーとの研究開発では、事業部門が情報システムの開発を行う前に、望ましいシステム構成の検討を、計算機インフラ分野の専門家として支援します。例えば、システムの基盤としてAmazon Web Services (AWS)などのパブリッククラウドを利用する場合に、仮想サーバやオブジェクトストレージなどの各種クラウドサービスをどのように組み合わせて、どのような設定で環境構築すべきか、検討して提案します。情報システムの要件、各種クラウドサービスの特性、社内開発プロセスなど、様々な要素を総合的に考慮する必要があり、大変ですがやりがいも大きいです。

後者の研究所独自の研究開発では、取り組んでいる研究テーマはいろいろありますが、その中から一つご紹介します。

それは、システム環境構築を自動化する技術であるInfrastructure as Code(IaC)の活用を目指した研究です。情報システムでは一般的に、システムが提供する機能(ソフトウェア)を実行させるための環境として、サーバなどの計算機やデータを保存するストレージなどのハードウェアリソースと、各リソースを繋ぐためのネットワークが計算機インフラとして必要です。IaCとは簡単に言うと、コードとして書いた計算機インフラの構成どおりに、計算機インフラを自動構築してくれる仕組みのことです。IaCを活用することで、システムの動作環境である計算機インフラを効率的に構築でき、人手での構築作業で起こりがちな設定ミスの削減も期待できます。

しかし、IaCはある程度の計算機インフラの知識や設計ノウハウがないと、活用するのが難しいという問題があります。そのため、どのようにすればIaCを皆が理解しやすくなり、IaCを活用・改善していけるのか、といった課題を研究テーマとして取り組んでいます。また、社内外でIaCの活用を普及させるための活動も行っていきたいと考えています。その一環として、本研究テーマの提案内容に関して学会発表も行いましたので、ご興味があればご覧ください。
https://www.ieice.org/ken/paper/20220112GChR/
※Ryo Hase and Yohei Matsuura, “Mathematical Modeling of Infrastructure as Code for Verification of Dependencies between Resources,” 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 121, no. 317, MSS2021-49, pp. 100-105, 2022.

▼ 仕事に必要な知識・スキル

技術の基礎知識を確実に身に着けつつ、新しい知識を柔軟に取り入れることが重要です。 流行りの技術は、数年経てば陳腐化してしまうことも多いです。

一方、学生時代に学ぶようなコンピュータやネットワークの基礎、数学などの知識は、変わらず役立つものが多く、新技術の理解も助けます。

例えば、クラウドサービスを利用すれば一見簡単に計算機インフラが作れますが、実はネットワークなど基本的な技術に関する知識がないと、クラウドサービスを安全に使いこなせないのです。

また、研究開発では関係者との議論の機会が多く、対話力やファシリテーション力も重要です。弊社では大きな研究プロジェクトの場合、部門や研究所を横断しタッグを組んで取り組むことが多々あります。冒頭で紹介した、3つの研究所で連携する場合もあり、各研究所の強みを結集したプロトタイプを共同で作るなど、密に連携しています。

このように複数のメンバーが持つ業務知識を引き出して課題を明確化したり、皆でアイデアを出し合って解決策を洗練したりなど、多くの議論から良い成果につながることも多いと思います。

このような議論の場では若手であっても「もっとこういう風にしていきたい!」など意見が言いやすく、働きやすい会社だと感じています。

また少し話がそれますが、私も経験させてもらった入社後に博士号を取得する活動に関しても、会社が取得を奨励しているので挑戦しやすく、活動に取り組むメンバーが多くいます。今後の活躍の幅を広げるのにとても良い環境だと思っています。

▼ 仕事に対する考え(想いやこだわり)

「職場になくてはならない研究員になりたい」という想いがあり、その実現に向けた行動を心掛けています。

研究の議論を盛り上げ、発展させるにはいろいろな人とのつながりが大事と考えており、社内のいろいろな人に声をかけて意見を聞いたり、内容によっては社外発表も行ったりするなど、つながりの輪を広げられるよう心掛けています。

その他、特に研究員は各自が専門性を持っているのは当然ですが、組織としては、個人が専門知識を抱えてしまうと大きな成果にはつながりにくいと思います。そのため、他の人に役立ちそうな知識は積極的に展開・共有するようにしています。

また私自身、学生の時はイメージが湧きにくかったのですが、企業の研究所では報告書や論文を書くだけでなく、たくさんの活動があります。

学生の時は個人、あるいは少人数で研究活動を進めることが比較的多いと思います。一方、企業においては事業部門や他の研究所メンバー、場合によっては大学や研究機関との取り組みなど、幅広い活動があります。技術調査や発表のために、海外の技術カンファレンスに行くこともあります。様々な人、組織と連携しながら、研究を発展させていきます。

企業の研究所では、ただ机にかじりついている時間ばかりではなく、いろいろな人と会話・議論する時間が多いと感じています。複数の研究テーマを並行して取り組むことも多く、各研究テーマで成果を出していくために、学生時代と比較して時間管理が重要となってきます。最初は少し難しいですが、多くの人と関わりを持って仕事や研究をすることは非常にやりがいがありますよ。たくさんの人と知り合いになれたり、自分の専門外の領域の知識もいろいろ教えてもらえたりすることが、とても楽しいと感じています。

また、自分の研究が事業にどう役立つか日々考えることも非常に大切です。自分が研究開発に携わった技術が、将来的にお客様の製品に採用されたり、開発現場で活用されたりすることを目指し、技術の研究に励んでいます。

情報データ科学部生にオススメする学びとは?

カリキュラムとして、主にIS分野の方に対応するものを抜き出しました。

● ネットワーク基礎(情報ネットワーク、ネットワークセキュリティ):

パブリッククラウドが普及し、ネットワーク機器などの細かい構成を意識しなくても、情報システムを容易に構築できるようになりました。しかし、TCP/IPなどのネットワーク基礎知識がなければ使いこなせない機能もあるため、必須知識です。

● コンピュータの仕組み(オペレーティングシステム、コンピュータアーキテクチャ、組み込みシステム):

AIを含めたアプリは、用途に応じてクラウド、エッジ、機器など、様々な場所で実行されます。OSやコンピュータアーキテクチャなどの仕組みを学ぶことは、アプリの実行場所ごとの制約を理解し、制約に基づいた適切なアプリを設計・開発するために重要になります。

● データの処理方法(データ構造とアルゴリズム、並列分散処理、データベース、ビッグデータ分析):

大量データの分析の際、できれば処理を高速に終わらせたいものです。仮にCPU・メモリなどのリソースを潤沢に用意しても、データ処理方法が不適切では、処理時間改善は期待できません。リソースの費用も無駄が生じます。データ構造やアルゴリズムの知識を深めると、適切なデータ処理方法を選びやすくなります。

学生のうちはじっくりと学問に専念できる期間になると思います。基礎的な知識をしっかり身に着けると、あとで大きな力になります。コンピュータやプログラミングの仕組みは、概念的な話だけではわかりにくいものもあります。実際に何か作ってみるなど、手を動かすことも理解を深める上で大切と思います。最近では、例えばクラウドでも無料枠で試せる機能があるので、興味のある技術をいろいろ試してみると面白いです。

勉強したことが社会や企業でどう役立つか知りたい場合は、夏休みや春休みを活用し、企業などが主催しているインターンシップに参加するのも良い経験になると思います。私も学生時代、インターンシップ参加の機会をいただき、企業の方々に実際に話を伺う中で、将来の仕事のイメージが深まりました。弊社でもインターンシップを開催していますので、ご興味があればぜひ、弊社インターンシップ紹介サイトをご覧ください。

インターンシップ情報
https://www.mitsubishielectric.co.jp/saiyo/intern/

(インタビュー日:2022年1月11日)