情報データ科学の「いま」がかわる!!プロのコトバ ~INTERVIEW~

顧客の要望に最新技術で応える研究所あがりのプリセールス

榎 美紀(エノキ ミキ)さん

【会社名】 日本アイ・ビー・エム株式会社
【所属部署名・役職】 営業統括本部 金融クライアントテクノロジー推進 アカウントテクニカルリーダー
【入社年】 2007年
【略歴】

大学では情報科学科を専攻し、データベースの研究室に所属。修士課程まではビデオ映像にアノテーションを自動付加する技術の研究を行う。

その経験や知識を活かしIBMの東京基礎研究所に入社。その後も情報処理のデータアクセスの高速化や性能分析の仕事に従事。

2013年、会社で取り組んでいた仕事を研究成果にまとめ社会人博士として大学に入学し、働きながら博士号を取得。

研究所には15年ほど在籍したのち、2021年からは研究職を離れ、お客様へ新しい技術を直接提案・お届けする部署へ異動。

学会の運営にも積極的に関わっており、現在、日本データベース学会の理事を務める。


<東京基礎研究所時代のお仕事の話>

現在の仕事ではありませんが、在籍期間が一番長かった研究所時代の仕事について先にご紹介します。大学での専攻がデータベースだったこともあり、アプリケーションやミドルウェアのデータアクセスの高速化や最適化を研究するチームに配属されました。

私は研究所のメンバーとして、お客さまに製品やソリューションを提供する事業部サイドからのフィードバックを受けながら、ミドルウェア(サーバサイドのJavaのWebアプリケーションサーバ)の性能改善を行いました。

性能改善をするためには、まず性能ボトルネックとなる箇所を発見分析する必要があり、ベンチマーク(性能試験用のソフトウェア)をミドルウェア上で試験し、どのメソッドが想定以上に時間がかかっているのか等、バイトコードレベルでの検証を行います。

例えば、変数の扱いやループなどの制御構造を見ながら、無駄にメモリやCPUを消費していないか、などを確認します。

さらに、ミドルウェア側で対処できることはないか、具体的な改善策を検討し、効果検証を行い、うまくいけば製品をアップデートしたりします。

当時の仕事について、論文も出していますので、ご興味があればご覧ください。

https://dbsj.org/journal/dbsj_journal/dbsj_journal_vol_10_no_1_73_78/

インタビュー
研究開発職は実は女性が働きやすい!?裁量がある職場でのキャリアの描き方

現在の仕事について

日本アイ・ビー・エム株式会社の紹介

IBMは、世界中に研究開発拠点を持つIT企業です。

ハードウェア、ソフトウェアの研究開発から、SE、コンサルティング、営業まで幅広い領域の職種があることが特徴です。

幅広い職種が揃っており、日々海外を含む社内公募も行っているので、キャリアプランの選択肢も多岐にわたり、自分にあったキャリアを描きやすい会社だと思います。

また、IBMは社員の博士号取得を推奨しています。例えば海外の研究所では博士号を取得していることが前提であり、私も会社のサポートを受けながら、博士号を取得しました。

日本アイ・ビー・エム株式会社に入社した理由

世界中の人を相手に、新しい技術を届けたり、一緒に研究したりできる機会があると感じたからです。また理系の企業としては、女性が多く働きやすい環境であると聞いたことも入社を決めた理由のひとつです。

私がファーストキャリアを研究職に決めた理由としては、そこから派生する製品や開発、営業など、どんな職種にも発展しやすいと思ったからです。

現に研究職は製品の中身を深く理解できる機会が多く、外から見ただけの理解とは大きく異なります。最初に中を理解できる研究に携われたことは本当に良かったと思っています。

研究所で自分の武器をつくることができたので、現在のように多少職種が変わっても滞りなく仕事ができる。自分の選択肢が広がるキャリアパスを歩んでいると実感しているので、おすすめのキャリアパスとして推していきたいです。

現在の仕事と役割

現在は、ATL(アカウントテクニカルリーダー)という職種名で、特定のお客さま専門の技術営業を行っています。

「営業」といっても、一般的な営業職とは違います。
お客さまのビジネス課題や要望に対して、マッチする最新のソリューションや技術のデモを実施したり、お客さま課題を解決するための新たなシステムやソリューションを提案する活動です。

お客様が抱えているITの課題に対して、最新技術を用いてどのように解決できるか日々ご提案しています。また、あるべき姿である全体像としてのITアーキテクチャを考えることも仕事です。

従来はパワーポイント等を使い紙ベースでのご提案が多かったですが、最近ではお客さま向けにプロトタイプを作りデモをしながらご提案することが増えています。

実際に動いているものを見せる方がお客さまもイメージしやすく、すぐにフィードバックを頂けるため、再度対応する形で作り直すという、アジャイル的思考で提案を行っています。

しかしその実現には、最新技術に深い知識をもつメンバーが必要であり、まさに研究所出身である自分の知識や経験が非常に役立っており、やりがいを感じています。

▼ 仕事に必要な知識・スキル

お客様の課題を聞き出したり、社内の適切な部門から最新情報を収集したりするコミュニケーション能力はとても大切です。

全体のITアーキテクチャを描いたりすることもおおいので、ネットワークやデータベース、セキュリティなど情報科学の基礎知識は必須です。

▼ 仕事に対する考え(想いやこだわり)

研究職の頃から変わりませんが、常に世の中の最新技術やトレンドを知っておくこと、それに対して自社はどのようなサービスを提供していけるかを理解しておくことが大切に感じます。

新しい技術を実際にお客様に提供して喜んでいただけることで、価値を見いだせると思っています。

情報データ科学部生にオススメする学びとは?

私昨今のAI技術(機械学習や深層学習)のしくみを理解するためには、数学の基礎知識が大切になってくると思います。

情報系の知識としては、データ構造とアルゴリズム、データベース、オペレーティングシステムなど基礎知識をおさえておくことで、研究開発、エンジニア、すべての職種において知識が役に立ちます。

プログラミングは、そのスキルはもちろん、論理的思考力を鍛えることにも役に立ちます。

情報データ科学部では情報系の科目がとても充実しているので、知識をたくさん獲得してほしいと思います。


昨今はインターンシップやハッカソンなども充実しているので、学生のうちから学び得た知識をどうやって社会で活かして行くのかをイメージしやすいのでチャレンジしてみるのをぜひおすすめします。

最後に、情報系の研究開発職は、自分の裁量で仕事を進められるので、在宅勤務もしやすく、子育てする女性や、家族の介護をしなければいけない人など、実はどの職種よりも働きやすい環境なのではと思っています。
就職で迷っている方は、「私生活も含めた長期的な働きやすさ」も考えて、研究開発職を選択肢のひとつにしてみてはいかがでしょう?

なお、私の企業研究員生活や働き方について、以下に詳しくご紹介していますのでご覧ください。

IBM における企業研究員生活
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsai/36/2/36_164/_article/-char/ja/

テレワークを活用して博士号取得 ―IBM東京基礎研究所 榎美紀さん
https://enterprisezine.jp/article/detail/8100

(インタビュー日:2022年1月13日)