情報データ科学の「いま」がかわる!!プロのコトバ ~INTERVIEW~

ブレない志でキャリアを突き進む!自然言語処理のスペシャリスト

大西 可奈子(オオニシ カナコ)さん

【会社名】 ヤフー株式会社
【所属部署名・役職】 SR推進統括本部 CX推進本部 プロジェクト推進部 機械化横断推進・リーダー
【入社年】 2020年
【略歴】

子供の頃から博士を志し、大学では理学部情報科学科を専攻。
大学院では人間文化創成科学研究科の理学専攻で学び、博士前期/後期課程を修了。
学部4年から博士後期課程まで人工知能(以下AI)、特に自然言語処理を専門とする研究室に所属。

理学の博士号を取得後、この道でのスペシャリストを目指すなかで、実際にAIの活用に携わりたいと思い企業への就職を視野に。

参考:大西さんの博士論文「構造化知識の利用による情報抽出」

これまで従事してきた仕事

2012年4月〜大手通信会社:
開発部門で対話システム(対話AI)の開発に携わる。主に関わった製品として大手玩具会社のおしゃべりロボット、大手出版社の有名キャラクターを用いたコミュニケーションロボット、雑談対話AI技術を活用したサービスなど。

まだアレクサやSiriなどの対話サービスが普及していない中、早期から人間と機械の対話を行う製品やサービスを世に送り出す。

2016年4月〜2018年3月 国立研究開発法人へ出向:
2年間、ディープラーニング(深層学習)を用いた対話システムの研究に従事。チームメンバと共にフルスクラッチで次世代音声対話システムを開発。

機械との自然な対話を実現するためには、Q&A形式のような対話(タスク指向対話)だけでなく、雑談のような自由で自然な対話(非タスク指向対話)が必要と考え、これを開発することがキャリアのベースになる。

2020年10月〜ヤフー株式会社:
カスタマーサポート業務のAI化およびAI人材の育成に従事。

本業に加えて2017年より副業として、AIに関する講演や記事執筆を多数行う。著書・監修書も多数。

インタビュー
子供の頃から志した博士号「AIといえば大西さん」と言われるようになるまで

現在の仕事について

ヤフー株式会社の紹介

ヤフオク!、Yahoo!ショッピング、Yahoo!ニュース、Yahoo!知恵袋など。

ヤフーはZホールディングスのグループ企業であり、他にもLINE、PayPay、アスクル、出前館などがあります。

ヤフー株式会社に入社した理由

大学から大手通信会社時代までは、職歴で紹介したように人間と機械の対話、特に雑談に注目した自然言語処理の研究開発を行っていました。しかし対話以外にも、もっと異なる切り口で自然言語処理によって人の役に立つことができないかと思い始め、カスタマーサポート領域で自然言語処理技術を活かすことが最適なのでは? と考えるようになったことが転職の動機のひとつです。

そんな時タイミング良くヤフーが「カスタマーサポートの領域をAI化」する人材を求めており、自分の希望とマッチしていたことが入社の理由です。

他にも、プロジェクトの統括者という立場で自身でゼロからAI化の計画を立て実現できるところに面白みとやりがいを感じたことや、オンライン前提の勤務体系が私にとって成果を出しやすく魅力に感じたことも入社を決めた理由です。

現在の仕事と役割

SR推進統括本部 CX推進本部 プロジェクト推進部 機械化横断推進のリーダーとして、チームを率いています。

ヤフーは非常に幅広い様々なサービスに提供しており、お客様からの様々なお問い合わせに対応するカスタマーサポート部門があります。日々、非常に多くのお問い合わせが寄せられており、これらを人手で効率的かつきめ細やかな対応を行うことが重要な課題としてあげられており、AI化のプロジェクトが立ち上げられました。
私が推進しているカスタマーサポート業務のAI化の取り組みでは、主に①お問い合わせ対応に関する業務と②不適切コメント等のパトロール業務の二つを対象としています。

①のお問い合わせ対応に関する業務では、自社提供サービスに対するメールでの膨大なお問い合わせに対して、お問い合わせの意図を推測するAIを開発しています。これにより、お問い合わせ対応の効率向上だけでなく、それによってできた時間を利用してよりきめ細やかな対応ができるようになっています。

②の不適切コメント等のパトロール業務では、Yahoo!ニュースなど不特定多数の人が書き込める部分について、公開してはいけない不適切なもの(プライバシー侵害や誹謗中傷など)を表示させないために、不適切かどうかを判別するAIを取り入れ活用しています。もちろん削除するかどうかの最終確認として人の目を通しますが、AIを活用することで素早く不適切なものを発見することができるようになりました。

AI化の取り組みは既存の業務をよく理解した上で、どこにAIを導入すればいいのか、どのくらいの効果があるのか、AI導入後の業務はどう変わるか等を全てセットで考える必要があります。そのためには既存の業務をよく理解しているカスタマーサポート最前線のメンバーと、AIに関する知識を保有するメンバーが共に同じ方向を向いて進んでいく必要があります。

情報技術との馴染みの薄いカスタマーサポートのメンバーと、AIに深い知識・スキルをもった技術者が協働するプロジェクトが生まれることは一昔前では考えられないことでした。このプロジェクトを円滑に進めるためには、お互いが相手の仕事をよく理解することが何より大事です。しかし、それには大きなハードルがあります。

職種などバックグラウンドが異なる人同士では、同じことを伝えているつもりが表現の仕方が全く違うことで誤解を生じることが多々あります。このようなプロジェクトの場合、基本的なコミュニケーションのレベルでもギャップを乗り越えることが必要なため、プロジェクトの統括者としてメンバー間のコミュニケーションギャップがなくせるようメンバー育成にも力を入れています。

AI人材の育成観点では社内セミナーなどを積極的に行い、私がいなくても健全にまわっていくチームを目指しています。

▼ 仕事に必要な知識・スキル

仕事に必要な知識は、機械学習/自然言語処理などの専門知識。そしてデータに基づいて方針を決定するためのデータ分析力です。

ただし、それらの知識だけでなく、チームで働く上で必要なスキルもとても重要だと思っています。

組織で働く上では、技術的な知識だけでなく、部署を跨いで協力を得るためのコミュニケーション能力や、必要なタスクの洗い出しや優先順位付け、メンバーへのタスク配分などプロジェクト推進力。そして、チームを円滑に動かすためのマネジメント能力が必要です。

▼ 仕事に対する考え(想いやこだわり)

方針を検討し、決定し、多くの人を巻き込んで実現し、効果を検証する一連の流れに大きな責任と、それに伴うやりがいを感じます。

チームメンバー、プロジェクトメンバーには「主体性をもって取り組む」「人の意見をポジティブに受け入れる」「ドキュメントを残す」「根拠を大切にする」の4つを守るよう伝えています。私はそれに加えてスピード感も強く意識しています。

ヤフーに入りチームリーダーになった際に、チームメンバーをAI人材にすることもミッションのひとつでした。4つの行動やAIの知識を教える中で、今では自立して仕事ができるチームに育ち、私自身安心して業務に取り組めています。

情報データ科学部生にオススメする学びとは?

私がおすすめする科目は3つあります。

数理・データサイエンス、基礎データ分析演習:
AIを仕事にする場合、データ分析をいかに早く正確に、そして深く行えるかが重要になるためです。

確率・統計、情報統計学:
こちらも前述とほぼ同様の理由ですが、多くのデータを扱う上で統計の知識は必須です。

AI観点ではモデルの評価基準は必須知識です。またAIに限らず、社内で企画を通すためには数値の信頼性等を説明する必要がありますので統計に関する知識はなくてはならないものです。

プログラミング概論:
機械学習においてデータを取り扱う場合、量や操作したい内容からエクセルで扱える範囲を超えることがほとんどです。そのため、プログラミングの知識も持っていることが望ましいです。

博士号取得のススメ:
上記の科目を学ぶことだけでなく、もし少しでも博士に興味があるのであれば選択肢として考えることをおすすめします。

私が博士に進み、良かったことは星の数ほどありますが、後悔したことは一度もありません。

博士を取得するためには単に指導教官のもとで研究成果を挙げるだけでなく、自分で研究課題を設定し、その価値を説明し、一つの研究として成立させることが一人前の研究者の素養として求められます。博士課程を通して、これができるようになったことは本当に良かったと思います。自分の仕事を成立させることは、どんな仕事においても必要なことだと実感しています。

他にも博士を持っていると仕事相手の自分に対する見方や対応が変わり、一人前の技術者として尊重してもらえることを実際の仕事で実感しています。

博士号を取るということは単にスペシャリストになる以上に、とても価値のある学びの時間になると思います。


学生時代をどう過ごすかは、その後の社会人人生において非常に重要になってきます。
大学でたくさん勉強して、その力をぜひ社会のために役立ててください。

また社会に出てからも勉強は続きます。学生時代に学習することの楽しさにもぜひ気づいて欲しいなと思います。

今回、自分自身のキャリアを振り返ったときに、ブレない自分でいたことが今の自分に繋がっていると改めて思いました。

具体的に言うと、自分がやりたいことや好きなことを周りに主張することがとても重要です。

でも、ただ主張すれば良いのではなく、やらせてもらえたことに対し結果を出し続けることが大切です。強い気持ちをもって、しっかりとやり抜くのです。

それを続けるうちに「対話技術といえば大西さん」「AIといえば大西さん」と、自分の強みが認められるようになります。そうすると、やりたい仕事が自分に舞い込むようになるんです。そういったブレない軸は小さいころからずっと持っていました。

最後に、データ分析や機械学習はとても楽しい分野です。弊社にはたくさんのデータがありますので、データ分析や機械学習に興味がある方に弊社を志していただけると嬉しく思います。

(インタビュー日:2022年1月14日)