情報データ科学の「いま」がかわる!!プロのコトバ ~INTERVIEW~

土屋 良介<(ツチヤ リョウスケ)さん

プロセスマイニングで
DXを促進するモノづくり研究者

土屋 良介(ツチヤ リョウスケ)さん

【会社名】 株式会社日立製作所
【所属部署名・役職】 研究開発グループ サービスシステムイノベーションセンター デジタルエコノミー研究部 研究員
※インタビュー時は、DXエンジニアリング研究部 所属
【入社年】 2015年
【略歴】

大学では、工学部で情報通信分野を専攻し、修士課程まで進む。

学部4年次から修士課程修了まで取り組んでいた研究テーマは、ソフトウェア工学における開発成果物間のトレーサビリティ回復について。国際学術会議2件、国際論文 誌1件に主著論文が採択され、修了時には研究科総代を務めた。

修士課程修了後、学生時代に研究を共同推進していた日立製作所の研究所に就職。
ソフトウェア工学の専門性を活かし、システム開発の生産性向上を目的とした技術および方法論の研究開発に従事している。
対外的な実績として、論文(主著1件、共著5件)、特許出願(筆頭発明4件、共同発明4件)を、それぞれ公表している。

インタビュー
プロセスマイニングでDXを促進するモノづくり研究者

現在の仕事について

株式会社日立製作所 土屋さん

株式会社日立製作所の紹介

日立製作所は、製造業としてのプロダクトをつくる力に加え、100年を超える「モノづくり」の歴史の中で培ってきた制御・運用技術(OT:Operational Technology)と、50年以上にわたる情報技術(IT)の蓄積があり、このOT、IT、プロダクトを結びつけて新たな価値を生み、社会課題を解決する「社会イノベーション事業」を
推進しています。

800社以上の連結子会社と共に、「モビリティ、ライフ、インダストリー、エネルギー、IT」の5つの成長分野を中心に、幅広い分野で
お客様の価値向上に貢献しています。

日立の研究開発は、100年を超える歴史の中で、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を実践し、
その時々の最先端技術開発に取り組みながら、未来につながるイノベーションを創出してきました。

先ほど挙げた5つの成長分野や日立グループが持つ「OT×IT×プロダクト」の技術基盤やノウハウを一元的に保有し、
協創から開発、蓄積までの価値創生サイクルを確立していることが、日立の研究開発の強みです。

入社した理由

学生時代から、幅広い分野で働く人々の生産性向上に寄与するようなモノづくりがしたい、社会課題の解決に資する汎用的かつ実用的な技術を創出したい、
という気持ちがありました。

そのために、
多種多様な事業領域を持ち、多くのお客様と関わり合いを持っている企業で働こうと考え、学生時代から共同研究を行っていた日立製作所に入社しました。

現在の仕事と役割

▼ 仕事

私が所属しているDXエンジニアリング研究部が行っているのは、
ビジネス価値を向上させるソフトウェアの開発効率化・高品質化を実現するデータ分析技術および開発自動化技術の研究開発です。

ソースコードや開発実績データ、利用状況データ等を分析対象として、開発から運用保守に至る各工程の作業を、AI等の活用により高度化しています。

この部署で現在、私が携わっているのは、エンタープライズ(企業)向けアプリケーションサービスの開発提供を行う事業です。

日立のパートナー企業と連携しながら新規事業の立ち上げを目指す活動に、技術面の専門家として携わり、技術の研究開発や検証を日々行っています。

参考)https://hitachi-dx-engineering-research.github.io/

▼ 役割

具体的な研究テーマは「プロセスマイニング」という技術で、これは企業が普段利用しているシステムや業務の履歴などの蓄積されたデータを分析することで、
実際の業務の進め方・実態を可視化し、業務の改善・効率化等に結びつけていくものです。

このプロセスマイニングサービスについて、お客様ご自身のデータからの気づきをより多く得ていただくために、
機械学習やクラスタリングなど様々な技術を使った研究開発に取り組み、パートナー企業を通じて実際のデータによる検証等を進めています。

▼ 仕事に必要な知識・スキル

企業研究者は、調査から企画・開発、検証、そしてお客様への説明・提案までオールマイティにこなすことが求められます。

ですから自分で情報を収集し、課題を見定め、試作を開発し、検証し、分かりやすく他者に伝える、そのためのスキルが必要です。

例えば、技術調査のためには、国内外の論文などを幅広く調べる必要があるので、相応の英語力が求められます。
また、課題設定や試作開発のためには、論理的思考力やプログラミングスキルが欠かせません。さらに、対外的な研究発表だけでなく、
研究者自身が自社内の事業部やお客様に技術を紹介する場面もありますから、論文等のライティングスキルやプレゼンテーションスキルも重要でしょう。

こうしたスキルを身に付けるためには、国際的な学術会議での研究発表に向けた活動が良い訓練になると思います。

特に査読付きの国際会議に論文を投稿しようと思ったら、ベースとなる既存技術の調査のために、国内外の論文をしっかり調べる必要がありますし、
既存技術と自分の研究成果を正確に比較して違いを説明する必要もありますから、こうした活動を通じて実践的な読解力や思考力が身に付くはずです。

論文をたくさん読むと、
多くの人に引用されている論文が分かりますし、そうした良い論文を読めば、読み手に伝わりやすい構成や表現、書き方のポイントなども学べると思います。

▼ 仕事に対する考え(想いやこだわり)

他者の抱える課題の解決に取り組む際に、私自身の専門性を活かすことができた時にやりがいを感じます。

自分の専門性や強みが活かせることでも、誰も課題を抱えていない、つまり需要がない場合には、その価値を発揮できません。

一方で、需要があったとしても、誰でも提供できるようなありふれた解決策では、やはりその価値は低くなってしまいます。
ですから仕事に向き合う際には、需要があるかどうか、自分の強みを活かせるか、の両面を意識するようにしています。

また、企業研究者には研究以外の仕事もたくさんありますので、何事も本質的に必要なことを見定めたうえで注力し、
限られたリソースが発散して何もかもが中途半端になるような事態は避けるように気をつけています。

情報データ科学部生にオススメする学びとは?

会社に入ってからも裁量が認められることは相応にありますが、特に入社したての頃は学習すべき技術分野が限定されることが少なくありません。
そういった意味で、自由度の高い学生時代には興味のある分野を徹底的に学べば良いと思います。

そのうえで効果的に知識やスキルを得ようとするならば、インプットとアプトプットをバランス良く行っていく必要があります。
インプットについては、必修科目を受講することで十分に行えますし、必要に応じて興味のある文献を読み漁ればよいでしょう。

一方で、学生に裁量が認められるアウトプットの機会は、1・2年次必修のPBL(Project Based Learning:問題解決型学習)と卒業研究くらいしかありません。

ですから、個人的には3・4年次のPBLと、インターンシップを選択受講することを推奨します。自信のある方は、年次に拘らずに研究室の先生にアプローチし、
興味のある研究やプロジェクトに早期着手する手もあります。

プログラミングスキルと人工知能に関する知識は、将来どの分野に進むとしても強い武器になっていくと考えています。したがって、
DSコースの方にはデータ構造とアルゴリズム、プログラミング演習Ⅲ・Ⅳを、ISコースの方にはAI系科目を選択受講することを個人的に推奨します。

学生へのメッセージ

多くの皆さんにとって、大学生の数年間は、人生で最も自由に生き方をアレンジできる期間だと思います

大学の講義に限らず、アルバイトやサークル活動、旅行や留学など様々なことにチャレンジできる良い期間であり、
それらの経験は成否に関わらず将来の糧になるはずです。

個人的にお薦めしたい活動は、コンテスト参加と論文投稿です。

私も学生時代にとあるロボットコンテストに参加していましたが、プログラミングコンテストやロボットコンテストなどに参加すると、
チームメンバーとの協力や他チームとの競争を通じて、多くの刺激を得られます。

また、学術会議や論文誌への論文投稿は、研究者やコンサルタントになるうえでの基本技能を身に着けるための良い練習となります。

活動が成果につながれば、客観的に評価される実績となりますし、自信にもつながります。
経験と実績に裏付けられた自信は強力ですので、ぜひチャレンジングな学生生活を送ってください。

(インタビュー日:2022年2月22日)