情報データ科学の「いま」がかわる!!プロのコトバ ~INTERVIEW~

井原雅行(イハラマサユキ)さん

人間中心の設計で優しく課題を解決するデータサイエンティスト

井原 雅行(イハラ マサユキ)さん

【会社名】 国立研究開発法人 理化学研究所
【所属部署名・役職】 情報統合本部 先端データサイエンスプロジェクト データサイエンスデザインチーム チームリーダー 
【入社年】 2021年
【略歴】

大学は工学部情報工学科を専攻。大学院では理工学研究科集積システム専攻で、デジタルフィルタの理論を研究。

修了後、NTT研究所に入社し、「人間の好み」に関する研究を行う。
入社8年目にはブリティッシュコロンビア大学、および、New Media Innovation Center(カナダ)客員研究員に。

その後、NTTコムウェアへ出向。また2011年の東日本大震災を機に、社会に役立つ研究をするべきだと考え、災害系の研究を開始。その後
総務省の国家プロジェクトとして避難所にいながら安否が伝わるシステムの研究開発の統括リーダを務めた経歴を持つ。
2021年、国立研究開発法人 理化学研究所に移る。

インタビュー
人間中心設計で社会をより良く!
デザイン思考で介護分野のDXを推進

現在の仕事について

国立研究開発法人 理化学研究所 井原さん

国立研究開発法人 理化学研究所の紹介

国立研究開発法人 理化学研究所(理研)は、国の研究機関として様々な自然科学研究(物理、生命科学、植物などの研究)を行う組織です。

NatureやScienceなど有名な論文誌に掲載されるような優秀な研究員が多く所属する組織です。

私が所属する情報統合本部は、研究データのオープン化で研究DXを推進。
データサイエンスデザインチームでは、データサイエンスを活用して社会課題を解決する「データ駆動型サービス設計方法論」を研究しています。

「データ駆動型サービス設計方法論」とは、データを活用しつつ人間を中心にサービス設計をする方法論です。
今後、社会でデジタル化が進む中で、人々の生活をより良くするためには、人間中心のデータサイエンスが鍵となります。

皆さんは「データサイエンス」と聞いて何を想像しますか?

AIや機械学習などを思い浮かべる人が多いかと思います。それらの技術が進むことは良いことですが、
気をつけなければいけないのがデータだけに捉われてはいけないということ。
研究をする上で、人間中心の設計思想を持ち、なぜそれが必要なのか、取り組むことの価値を考えていくことを大切にしています。

入社した理由

データ活用が進む将来へのアンチテーゼとして人間中心設計の必要性を訴えたいと思い、入社を決めました。
データだけを見ていても、人間のためにならない、研究をするのであれば人の役に立ちたいと強く思っています。

また介護現場を良くするサービスを生み出したいと考えていたため、成果が社会実装される研究を希望しました。

現在の仕事と役割

▼ 仕事

データサイエンスチームのリーダとして研究統括し、介護現場スタッフと一緒に介護現場の課題を解決するためのデザインプロセスを実践しています。

▼ 役割

現場のケアワーカーへのヒアリング結果から見えてきた介護現場の課題は、人手不足や社会変化を踏まえた現場のIT活用度向上や、タブレット端末を利用した
オンラインイベントや認知症のカウンセリングの実施など「DX推進の必要性」に関するものでした。

一方で、デイサービスの利用を嫌がる人が一定数いるという情報を踏まえ、サービスに対する理解・共感は千差万別であることや、
多様な利用者のニーズに応えることなど、「人間中心の必要性」がある課題も数多く挙げられました。

このような現場の具体課題を解決し、プロセス実践ノウハウを方法論化して学術発表で公知化するのがチームの役割です。
ノウハウや手法は特許ではなく、色々な介護現場で使ってもらえることを目指しています。

また、参考までに仕事の流れを説明すると、基本は在宅勤務で、たまに埼玉県和光市のオフィスに出勤しています。在宅時は、オンライン会議、ワークショップ準備、データ分析、論文執筆などを行い、隔週で福岡県大牟田市に出張し、介護施設二箇所でデザイン思考ワークショップを行っています。

▼ 仕事に必要な知識・スキル

デザイン思考、人間中心設計、統計処理、対人力が必要となります。

デザイン思考:「デザイン思考」とはスタンフォード大学が提唱した考え方です。ユーザが抱える本質的な課題を定義し、提供価値を明確化し、
アイディアを創造します。共感、定義、創造、試作、テストの5つのステップを繰り返し実践します。

人間中心設計:この思想のもと、提供価値を明確化可能なデザイン思考で人間中心の設計を行っています。
データサイエンスの具体的な分析の外側(前提)の、なぜそれをする必要があるのか?という根本的な課題(取り組み自体の価値)を定義し解決しています。

統計処理:この人間中心設計を行う際には、データに基づいてデザインプロセスを実践、評価します。そのため、統計処理のスキルが重要になってきます

対人力: 介護現場の課題を解決する研究テーマにおいては、研究室に閉じこもっているのではなく現場に入り込み、現場で進めることが重要です。
生活空間に入り込んでステークホルダと一緒になって課題を解決しています(リビングラボ)。
実際に現場の人たちや専門家と共にワークショップを交えながら業務改善などを進めているため対人力はとても重要です。

▼ 仕事に対する考え(想いやこだわり)

研究者の専門性と現場スタッフが持つ強みの相乗効果で、社会を良くする研究成果を生み出すことにやりがいを感じています。

仕事に対しては、何事も「共感」が大事だと思っています。 相手がどう思っているのかを、考えたり知ったりすることが重要。

例えば、介護現場のスタッフの方から見た時、最初は研究者である私たちを警戒していることがあります。
私たちが何をしに来たのかを100%理解していない状態で協力してもらうこと、スタッフの方の業務がある中で時間をいただきワークショップをやらせてもらうこと、相手の都合を考えて進めていくこと。

そういった共感力を持つことを大切にしています。

情報データ科学部生にオススメする学びとは?

データサイエンスを生業とするために学んでおくべきカリキュラムはこちらです。

・デザイン思考:実社会課題解決プロジェクトA〜D
・人間中心設計:デザイン情報学I〜II
・統計処理:情報統計学、多変量解析、数理統計学
・対人力:

対人力については、学校生活やプライベートの時間に身に付けることができます。あえてカリキュラムを挙げるなら
実社会課題解決プロジェクトなどチームやアドバイザとして参画している企業の方と接する中で学んでいけるかと思います。

ちなみに
対人力に関して、私自身が子供の頃から人と接することへの苦手意識を持っていて、そこをなんとかしたいという動機から、今の分野の研究にも繋がっています。

例えば主張が異なる場合に、相手なりの理由があると考えられるかどうか、あるいは自分の意見を主張してしまうのか。
こういうときに相手の理由を冷静に考えられるようになれるかが対人力。

当事者意識を持ち、課題に向き合えることができるか。「問題は我にあり」と考えられることが非常に大切です。

学生へのメッセージ

データサイエンスは目的ではなく手段です。社会を良くするための手段として上手にデータサイエンスを活用してほしいと思います。

社会でデータ活用が進むとデータ偏重指向が高まる可能性がありますが、データ社会のためにデータを活用するだけではなく、人間の生活をより良くするために
データを活用しつつ人間中心の考え方も大切して下さい。

私自身も、そういった理念を持ち仕事をすることが重要であり、大事にしています。 そして、同じ理念を持つ人たちと仕事をしていきたいと思っています。

(インタビュー日:2022年4月17日)