情報データ科学の「いま」がかわる!!プロのコトバ ~INTERVIEW~

佐藤洋行(サトウヒロユキ)さん

パイオニア企業をリードする
データサイエンスの第一人者

佐藤 洋行(サトウ ヒロユキ)さん

【会社名】 株式会社電通クロスブレイン(株式会社ブレインパッドより出向)
【所属部署名・役職】 取締役
【入社年】 2020年(出向元には2007年入社)
【略歴】

大学は農学部で、大学院に進み「リモートセンシングによる農地の評価」を研究テーマとして博士号を取得。

2007年、新卒でブレインパッドに入社し、データサイエンティストとして企業のデータ活用を支援する業務に従事。

その後、自ら希望して営業職となり、入社3年目で営業部長となる。2011年、ブレインパッドが東証マザーズに上場したことをきっかけに
分析サービス部長となり、データサイエンティストの育成事業やジョイントベンチャーを立ち上げる。

2016年からは、サービス開発本部副本部長としてサービス開発をリードした。

2020年、ブレインパッドが電通グループと共同出資した電通クロスブレインに出向し、取締役として会社経営を行う。

2016年から2019年には、多摩大学経営学部経営情報学科の准教授を兼任。現在も多摩大学大学院で客員教授を務めている。

インタビュー
マーケティング分野に特化したデータ活用支援

現在の仕事について

株式会社電通クロスブレイン 佐藤さん

株式会社電通クロスブレインの紹介

電通クロスブレインについて説明する前に、出向元であるブレインパッドについて簡単にご紹介します。

ブレインパッドは、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」というミッションを掲げて2004年にスタートし、
現在では社員数500名超に成長している会社です。

「プロフェッショナル・サービス(専門人材によるデータ分析)」と「プロダクト・サービス(SaaS:Software as a Service、クラウド上にあるソフトウェアをインターネット経由でユーザーが利用できるサービス)」という2本を柱に、データ活用によって顧客企業の課題解決を支援しています。

参考)https://www.brainpad.co.jp/services/

このブレインパッドが電通グループとの共同出資によって2020年に設立したのが、電通クロスブレインです。

受託する仕事の分野を限らないブレインパッドに対し、電通クロスブレインはマーケティング分野に特化しているのが特徴で、
「データの収集、蓄積、分析」から「分析結果に基づくマーケティング施策の立案、施策の実行支援・代行」までをシームレスに提供します。

データの分析で終わらず、ターゲットへの効果的なアプローチ法を考え、実行するところまで行うのが電通クロスブレインの強みです。

電通とブレインパッドを掛け合わせた(電通×ブレインパッド)社名に表れているように、
データ分析とマーケティングの専門家がタッグを組み、マーケティング分野に特化した統合的なデータ活用を支援していています。

入社した理由

現在でもそうかもしれませんが、当時、博士号取得者は公的機関の研究職になる流れが一般的で、私自身にも国の農業機関で働くという道がありました。。

ただ、大学で研究を進める中で、データに基づく意思決定に大きな有用性を感じていたことから、
「それに携わる仕事がしたい」「データを活かしたビジネスがしたい」と思っていました。

そこでデータの分析・活用を行っている会社を調べ始めてみると、当時はそれを専門とする会社が非常に少なく、チャンスだと感じたのです。

「ビジネスの全体像を知りたい」という思いもあったため、大きな会社よりも小さな会社を希望していた中で出会ったのが、当時創業3年目でまだ小さなベンチャー企業だったブレインパッドです。創業者から強い情熱を感じ、掲げているミッションにも強く共感したため入社を決めました。

現在の仕事と役割

▼ 仕事

私は、電通クロスブレインで取締役として会社を経営しています。

社員がクライアント企業にサービス提供する際の効率改善や品質向上のための仕組みづくりと、その運用をリードすることが主な役割です。

▼ 役割

当社の業務内容ですが、会社説明で少しお話ししたたように、電通クロスブレインはマーケティング分野に特化してクライアント企業のデータ活用を支援しています。

マーケティングと言っても漠然としていますから、ここでは分かりやすい例として「LTVを高める」ための支援についてご紹介します。

そもそもLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、1人のお客様が生涯にわたって自社にもたらす利益の総額を表す指標です。
自社にもたらす利益の総額ですから、「高額の商品・サービスを利用してくれるお客様」や「高頻度で利用してくれるお客様」はLTVが高いと言えるでしょう。

クライアント企業のLTVを高めるには、既存のLTVを「高くする」か、LTVの高いお客様を「獲得する」ことが求められます。

私ども電通クロスブレインでは、クライアント企業の売上構造、利用するお客様の年齢・性別といったセグメンテーション、行動履歴・傾向などをデータ分析で
明らかにし、クライアント企業の顧客のLTVを推定するモデルを提供しています。

各種のデータから「どんなお客様が、どの程度のお得意様になり得るか」を早期に推定したうえで、
この推定値よりも高くする・推定値が高いお客様を獲得するためにはどうしたらよいのか、効果的な施策を考え、実行までを支援しているわけです。

LTVを高めるための具体的な支援内容については、健康食品の通販を行っているクライアント企業の案件で簡単にご説明します。

この企業は「定期購入」を推進していましたので、構造としては「定期購入の解約を防ぐことができればLTVが高まる」というシンプルなものでした。
そこで過去に実施してきた定期購入継続のための施策を検証してみると、わずかながらLTVが高まっている施策があったのです。

「商品を送付する際に印刷物を同梱する」という施策の1つだったのですが、すべての印刷物に効果があったわけではありません。
効果の出ている施策と出ていない施策を比較してみたところ、文字の大きさに微妙な違いがあることが分かりました。このクライアント企業のお客様は
高年配層が多く、文字の小さい印刷物では効果が出なかったと考えられました。

こうした分析をもとに、年配のお客様が見やすいのはどのくらいの大きさの文字なのか、どんな色やフォントが良いのかなども検討することで、
より効果的な施策につなげていくことができました。

実際の案件でこのように単純なものは多くありませんが、各案件は基本的に、データの収集・分析等を担うアナリストと、
分析結果を基に効果的なマーケティング施策の検討等を担うプランナー(マーケター)がチームになって取り組みます。

アナリストとプランナーはあくまで役割の違いで上下関係はありません。

案件の大きさによってチームの人数は異なりますし、アナリストとプランナーのどちらがプロジェクトリーダーを務めるかも案件によって異なります。
現在は、主にブレインパッドの人材がアナリスト、電通の人材がプランナーの役割を果たしていますが、
今後はプロパーで各役割を担える人材を育成していきたいと考えています。

キャリアイメージについても触れておくと、データサイエンティストとして入社した新人は、まずアナリストとしてSQLやPythonを使ったデータ分析に携わります。
チームの一員として顧客対応スキルを身につけながら、5年目頃にはシニア(上級職)として分析設計やクライアント企業が抱える課題を分析課題に
落とし込めるようになるのが一般的です。

このくらいのキャリアになると、そのままコンサルティングの仕事を続けるだけでなく、支援する側の事業会社で力を発揮したいと考えたり、
データ分析を極めるスペシャリストを選んだりと、進む道は分かれてくると思います。

▼ 仕事に必要な知識・スキル

データサイエンティストとしては、データサイエンスに関するあらゆる知識、それをビジネスに応用する技術をベースに、
プロジェクト管理やプレゼンテーションの能力を駆使することが必要です。

私は取締役ですから、会社経営者として会計の知識も必要になります。

クライアントの課題解決というコンサルティング業務に携わる人材には、「社会から何を期待されているのか」をしっかり考えられることが大切だと思います。
電通クロスブレインで働くのであれば、「マーケティング分野でのデータ活用において、自分が果たせる役割」を考えられることが重要と言えるでしょう。

▼ 仕事に対する考え(想いやこだわり)

もともと、出向元であるブレインパッドの「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」というミッションに強く共感し、
今もその使命を果たすための仕事にやりがいを感じています。

業務推進にあたっては、プロフェッショナルとして、常に高効率・高品質な仕事をすることを心がけるとともに、
データだけですべてが解決するわけではないことを認識し、関係者との信頼関係の構築を何よりも重視しています。

情報データ科学部生にオススメする学びとは?

データサイエンティストを目指すうえでは、統計や機械学習についての専門的な最先端の知識を常に追いかける必要があります。

ですから基礎数学科目については全科目理解すべきだと思いますし、当然ながら統計学系科目・AI系科目もできる限り学ぶことをお薦めします。

また、実際の業務では多くの企業でpythonを使うので、情報学基盤科目でPythonでのプログラミングを習得しておくとよいと思います。データサイエンティストに
限らず、ビジネスは社会課題の解決を目指すものですので、コミュニケーション科目の実社会課題解決プロジェクトも経験するとよいでしょう。

そして何より、学友との様々な議論により、論理的なコミュニケーションを学ぶことが、学生時代にしかなかなか経験できない貴重なものになると思います。

学生へのメッセージ

私が社会人になって先輩からいただいた中で、印象に残っている言葉の1つに「夢を語っている間は子供だ。大人なら志を語れ」というものがあります。

ここで夢とは、
自分個人が成し遂げたいことを指し、志とは社会的な要請に対する自身の対応方針を指します。私の大学時代はまさに、志を形成する期間だったと思います。

皆さんの志はなんですか?

データ活用に対する社会の注目は高まる一方です。つまり、皆さんは社会から大きく期待される存在です。それに対し、皆さんはどう応えますか?

就職活動を始めるまでに、ぜひ考えてみてください。
そして、マーケティング分野でのデータ活用が皆さんの志に沿うようでしたら、ぜひ我々と一緒に仕事をしましょう!

(インタビュー日:2022年5月13日)