情報データ科学の「いま」がかわる!!プロのコトバ ~INTERVIEW~

先端技術を社会に融合させるソーシャルデザイナー

花田 雄一(ハナダ ユウイチ)さん

【会社名】 富士通株式会社
【所属部署名・役職】 研究本部・先端融合技術研究所 ソーシャルデザインプロジェクト
【入社年】 2009年
【略歴】

学生時代は工学部の情報システム工学科で情報通信分野を専攻し、修士課程まで進む。研究テーマは、ヘテロコア光ファイバセンサを用いたセンシングと通信を両立したネットワークについて。コア径の異なるファイバを任意の場所に挿入融着したヘテロコア光ファイバセンサは、コアから漏れる光の量でファイバの曲がり具合をセンシングするもの。このヘテロコア光ファイバはセンシングと同時に通信としても利用可能なため、センシングが与える通信への影響を考慮したネットワーク設計に関する研究を行っていた。

2009年4月、株式会社富士通研究所(当時)に入社。約5年間は移動体端末(携帯電話・スマートフォン)の位置測位に関する研究を主に行い、その後は測位技術の研究を活かす形でアプリケーション配信基盤「プレイスサービス」の研究開発に携わる。2017年6月から1年間は、スタンフォード大学に客員研究員として滞在し、ブロックチェーン(Smart Contracts)によるIoTデバイス制御に関する研究を行った。帰国後の現在は、手のひら静脈認証と顔認証を用いたマルチ生体認証のシステム開発に従事している。

主な業務経験
  • 〈移動体端末の位置測位関係〉
  • ・ばねモデルを用いた歩行軌跡補間技術の研究
  • ・Wi-Fi電波強度を用いた在圏検知技術の研究
  • ・歩行軌跡形状を歩行者用道路トポロジ情報から検索する屋内歩行者位置推定法の研究
  • ・Wi-Fiビーコンと歩行者自律航法を使用する屋内歩行者測位技術の研究
  • ・低電力屋内外シームレス測位の研究
  • 〈プレイスサービス関係〉
  • ・測位ライブラリの開発
  • ・配信アプリケーションの開発
  • ・大規模実証実験によるプレイスサービスの有効性検証

〈ブロックチェーンによるIoTデバイス制御に関する研究〉
〈マルチ生体認証のシステム開発〉 など

インタビュー
マルチ生体認証のシステム開発について

現在の仕事について

富士通の紹介

富士通は、ICTサービス市場で国内No.1、世界でもNo.8の売上高を誇る会社です。世界180カ国で事業を展開し、約400社のグループ会社と連携しながらグローバルなサービス体制を築いています。約13万人の富士通グループ社員が、国内外問わずシームレスに連携し、世界中のお客様を強力にサポートしています。

研究開発に関しては、先端融合技術(Converging Technologies)、コンピューティング(Computing)、人工知能(Artificial Intelligence)、データ&セキュリティ(Data & Security)、未来社会(Future Society)といった幅広い領域に力を入れています。
私が所属する先端融合技術研究では、富士通が長年培ってきたコンピュータサイエンスなどの自然科学の知見をベースに、人と社会にフォーカスした異分野融合によって、新たな研究開発に取り組んでいます。また、人とサービスの関係性を軸としたうえで、どのように「社会」を最適化していくべきか、社会と産業を再構築(リ・デザイン)するソーシャルデザインプロジェクトにも力を入れています。
参考)https://www.fujitsu.com/jp/about/research/business/advanced-converging-technology/index.html
参考)https://www.fujitsu.com/jp/innovation/socialdesign/

人材育成に関しても様々な取組みがなされており、グローバルに活躍できるビジネスリーダーの育成支援が充実していることも特長です。例えば、入社2年目までの選抜された社員を対象とした10日程度の海外研修プログラムや、若手人材を対象とした1年間の海外派遣プログラムなどが実施されており、私自身これらの制度で様々な経験を積ませてもらいました。

入社した理由

大学時代の指導教員の先生が株式会社富士通研究所(当時)出身で、先生からよく研究所時代の話を聞いていました。その中で仕事のイメージが沸いたのが研究職でした。当時研究所とのつながりはなかったので、大学推薦で富士通株式会社から内定をいただきました。その後修士2年時に研究活動の一環で訪れた学会発表先で富士通研究所の方と知り合い、マッチング面談によって富士通研究所に配属となりました。

現在の仕事と役割

現在は、マルチ生体認証の汎用化に向けた研究のチームリーダーとして、チームメンバーと共にアルゴリズムの検討からシミュレーション評価、実装などを行っています。

スマートフォンの指紋認証や顔認証により、いまや身近な技術となってきた生体認証ですが、そもそも生体認証には1対1認証と1対n認証(1対多)という2つの方法があります。1対1認証とは、登録された多数の生体データの中から自分のデータを指定し、その指定したデータと提示した生体情報の照合を行うのもの、1対n認証とは、登録された多数のデータと提示した生体情報を直接照合するものです。
1対1認証では自分のデータを指定するためにIDの提示といった手間がかかりますが、1対n認証ではこの手間が不要です。コロナ禍の影響もあり、より接触の少ない1対n認証のニーズが高まっているのですが、1対nのn、つまり識別対象人数は無制限というわけではありません。生体認証による本人識別は、小売業などのコンシューマーサービスはもちろん、行政サービスなどでも利用拡大が見込まれますので、識別対象人数をいかに拡大するかは大きな課題といえます。
そこで開発が進んでいるのが、複数の生体認証を組み合わせることで識別対象人数を大幅に拡大できるマルチ生体認証です。富士通の「手のひら静脈認証」は、すでに世界60カ国・1億人に使われている実績がありますが、識別対象人数は数万人が限界でした。マルチ生体認証は、まず「顔情報」によって照合対象者を100分の1程度に絞り込み、そのうえで手のひら静脈認証によって本人を特定するため、100万人単位の識別が可能になります。

参考)https://www.fujitsu.com/jp/about/research/article/202011-multi-authentication.html

このようにマルチ生体認証の説明をすると、照合の精度、正確性を高めるための研究が真っ先に思い浮かぶかもしれません。当然、そうした精度面の研究開発は日々活発に進められていますが、私自身が取り組んでいるのは、マルチ生体認証を社会生活のインフラとして汎用化するためのシステム面の研究開発です。
識別対象人数が増えればそれだけ処理に時間がかかりますし、サーバーの容量も必要とします。複数の生体情報を読み取る必要があるため、利用者にもストレスをかけかねません。そこで私たちは、サーバーに負担をかけず効率的に処理を行うためのアルゴリズムや、生体情報がスムーズに読み取れるユーザーインターフェースの検討など、マルチ生体認証を実用的で使いやすいシステムに仕立てるための研究開発に取り組んでいるわけです。
2020年(3月16日~)には、富士通事業所内のレジなし実験店舗において、マルチ生体認証による手ぶら決済を実現し、利便性の実証検証を行っています。この実証実験では、利用者に負担をかけずスムーズに認証を完了させるにはどうすればよいのか、マスクを着用したままでも高精度な絞り込みができる技術を開発したり、よりスムーズに静脈認証が行えるようセンサーの改善を行ったりするなど、利用者視点に立った試行錯誤を繰り返しました。

参考)https://pr.fujitsu.com/jp/news/2020/02/18-1.html
参考)https://pr.fujitsu.com/jp/news/2021/01/21.html

こうしたシステムにより、社会生活で汎用的に利用できる本人識別のインフラが実現できれば、より個人にパーソナライズされた利便性の高い社会が実現できます。社会に先端技術(産業)を融合させる、まさにソーシャルデザインと言えるでしょう。

▼ 仕事に必要な知識・スキル

私は現在、先端技術を使いやすいシステムに仕立てて実践につなぐという立場にあります。ですからプログラミング、データベース、ネットワークなど多岐にわたる知識はもちろんのこと、仕事で関わる相手との間に認識の齟齬や誤解が生じないよう密(3密の密ではない)にコミュニケーションを取ることが重要です。面倒だと感じたり、性格上難しかったりすることもあるかもしれませんが、少しでも違和感があれば、ためらわずに連絡を取り、認識違いがないかを確認できることが大事です。

▼ 仕事に対する考え(想いやこだわり)

自身の研究が、将来世の中のどこで使われているかを考えながら生活をしています。「こんな場面で自身の研究が製品となって使われていればな…」と思えば、それが製品になったときの達成感ややりがいは大きくなると思います。その積み重ねが今後の良い成果を出すための経験となると考えています。なかなか製品に結びつくことも多くはないですが。

情報データ科学部学生にむけて

コンピュータ全般の基本的な知識・スキルは習得しておいたほうがよいので、「プログラミング」「データベース」「オペレーティングシステム」といった科目の履修は大切です。種類が豊富なのですべてを深堀することは難しいですが、1つを深く、他を浅く広く学んでおくとよいと思います。 「数学」「統計学」「データ分析」などの科目も大切です。数学は研究手法のアイデアを数式にモデル化する際に必要ですし、統計学やデータ分析は実験結果を分析したりする際に必要となります。

学生へのメッセージ

「これだけは頑張った!」と言えるくらい何か好きなことに一生懸命取り組んでみるのもよいかと思います。頑張った経験が、他のことにも活きてくると思います。
富士通は幅広い業界に対して、ICTで社会をより良くしていこうと頑張っている会社です。社内での異動制度なども充実しているので、きっと自分にあった部署を探すことも可能です。就職活動の際には、ぜひ富士通にチャレンジしてみてください。

(インタビュー日:2022年5月25日)