入社した理由
私は大学院で数理最適化を専攻し、企業との共同研究を進めていたことから、「技術をコアとしてビジネスをリードしたい」という思いが強くありました。そのため、就職活動の際に最も重要視していたのは「技術を最大限に活かせる環境」という点です。
そんな中で参加したNTTドコモのインターンシップにおいて、当社がモバイル空間統計をはじめ、行動情報といった膨大なビッグデータを保有していること、それを活用できるビジネスドメインが存分にあることを知りました。こうした素晴らしい環境に加え、リーダーとしてそれらの活用を推進されている社員の方にも魅力を感じ、入社を決めました。
現在の仕事と役割
私が所属しているのは、R&Dイノベーション本部のサービスイノベーション部という部署です。サービスイノベーション部では主に、技術イノベーションによる新サービスの創出およびビッグデータの分析、技術支援などを行っています。
私の仕事は、データサイエンティストとして各種の事業推進に携わり、価値を生み出すことです。ここでの価値化は、自社に限らず社外パートナーとの協創や海外へも及びます。そして、この価値化を叶える手段が機械学習や数理最適化といった技術です。私はこれらの研究開発と実ビジネスへの適用を行っています。
例えばモバイル・サービス事業では、データを活用した将来予測や最適な商品・サービス推薦を通じて、収益貢献や満足度向上といった価値創造を目指しています。具体的には、「お客様の行動情報などのデータを解析することでモバイル端末の需要予測を行い、在庫の適正化によるコストの削減や販売効率の向上につなげていく(収益貢献)」「機械学習の技術を用いてパーソナライズした広告を配信することで、お客様の利便性・満足度向上につなげていく」といった具合です。
以下では、近年注力している配信広告の最適化に関する研究開発について紹介します。
自社のポータルサイト等に表示する広告については、もともと人の手によって選択がなされていました。これを機械学習・強化学習の技術を用いて、できる限りお客様のニーズにマッチしたものに近づけていくという取組みです。
当初は、ランダムに表示した広告に対するユーザーの行動履歴を解析し、最もクリック率・コンバージョン率の高いものへと収束させる取組みを進めていました。ただ、この手法では不特定多数の中でニーズが高い広告を選び、それを全体に向けて配信することしかできません。年齢や性別などユーザーの属性が異なれば、当然そのニーズも異なりますから、より高いコンバージョン率を目指すには、個々にパーソナライズされた広告を配信する必要があります。
そこで私は、海外のグループ会社DOCOMO Digital Limited(当時)に協力してもらい、バンディットアルゴリズムの拡張技術(Contextual bandit algorithm)を活用したアプローチの研究開発を進めました。詳細な説明は割愛しますが、これにより1人ひとりのお客様に対してニーズによりマッチした広告の配信が可能となり、お客様の利便性向上・収益貢献といった価値につなげられたのではないかと思います。
ちなみに、この研究開発については私から「新しい技術を取り入れたい」と提案し、研究開発のパートナー(DOCOMO Digital Limited)も自分で開拓しました。NTTドコモは、モバイル空間統計をはじめとした膨大なビッグデータやクラウド基盤などのリソースに恵まれていることはもちろん、こうした自由な発想や自発的な研究開発を推奨してくれる点も大きな魅力です。
▼ 仕事に必要な知識・スキル
私が日々の業務で大切にしているのは、「研究開発」と「ビジネス」の両面を意識することです。研究開発の観点では、世界最先端の技術を目指し、数理モデルを構築したり機械学習アルゴリズムを自身でコーディングしたりと、技術の高みを追い求めています。ビジネスの観点では、解決すべき課題の背景や分野特有の事象(ドメイン知識)を理解したうえでソリューションを検討すること、課題解決が事業に与えるインパクトを重視して仕事を進めることを意識しています。データサイエンティストは、このように研究からビジネスまで幅広くリーチできる非常に刺激的な仕事です。
また、データサイエンティストには「いつもPCディスプレイと睨めっこをしている仕事」というイメージがあるかもしれませんが、実は人とのコミュニケーションがとても大切です。
データの有用性が広く認識された昨今では、事業部側から「こんな機能を実装したいんだけど…」とニーズベースで相談されるケースが増えています。しかし、私がNTTドコモに入社した当時はデータサイエンスの黎明期とも言える頃で、こちらから事業部側に「こんな有益な機能も実現可能ですよ」と技術的なシーズベースで提案していくケースがほとんどでした。ただ、10年前はデータの価値に対してまだ懐疑的な方も多く、他部署からデータを提供してもらうのにも苦労しましたし、積極的に提案してもなかなか受け入れられない時もありました。その度に、現場とコミュニケーションをとり、自ら仕事を獲得することで、地道に自分たちの仕事の価値やデータ分析の有効性を示してきたわけです。
データサイエンティストが重宝されるようになった現在でも、この姿勢に変わりはありません。これまでお話ししてきたように、ビジネス課題を解決し、事業価値を創造するためには、課題の背景やドメイン知識の理解、事業に与えるインパクトの考慮などが必要であり、そのためにはやはり現場に入ってコミュニケーションを重ねることが欠かせないからです。
▼ 仕事に対する考え(想いやこだわり)
自身の業務による世の中への影響度や高い効果が得られたときに、やりがいを実感します。自らが構築したアルゴリズムや戦略が、あらゆるお客様へ直接影響することは、大きな責任が伴います。プロジェクトによっては数十億円規模のものもあり、そうした責任を自身のデータ解析や機械学習といったスキルで果たしていくことが使命だと考えています。
また、ドコモでは幅広い分野でこのスキルを活用することが可能です。決済、広告、ポイント流通・送客といったデジタルマーケティングや、サプライチェーン、パートナー連携による他産業への応用をチーム一丸となって進めています。